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[翻訳部コラム]熱交換器は何をするものか?#6

[翻訳部コラム]は、普段は特許翻訳を担当する翻訳者・翻訳チェッカーが、業務を通じた考察をもとに執筆いたします。

熱交換器は何をするものか?

-主体が「現象の起こる場所」であるケースにおける翻訳の諸問題をめぐって-

6. 熱交換器を主語とする日英文―記述の解像度

長く回り道をしましたが、コラムの本題に戻りましょう。「熱交換器は何に対し何を行うものなのか」。この問いは、実は文をつくるとき、主語である動作主は何であり、被動者であり目的語は何とすべきかという問題に変換されます。あるいは#1で述べたように、筆者たち翻訳者にとって、先の抽象的な議論は、「主語と動詞に何を定めるか」という実務的な問題からさかのぼって得られたもの、ということもできます。
上記の議論を踏まえるならば、熱交換器「は」熱交換という現象「を」引き起こす/促進する、となります。
英語にしてみましょう。heat exchangeが現象であることは自明でしょうから、phenomenon of 等の訳出は不要でしょう。

A heat exchanger causes heat exchange (between refrigerant and air).

しかしこれは何か持って回った言い方で、次のように言いたいと感じる人もいることでしょう。

A heat exchanger exchanges heat between refrigerant and air.

両者とも完全に問題のない英文で、どちらも用いられます。後者の方がすっきりしているとも感じられます。しかし、これまで繰り返し述べてきたように、熱交換器じたいは自身が積極的に何かを行うよう構成されたものではなく、そこを通過する流体のあいだに「熱交換という現象を引き起こす、ないし促進するもの」なのでした。そのような世界観のもとでは、やや持って回った上の言い方の方が、技術的により解像度の高い記述であると感じられることになると言えるのではないでしょうか。

しかし、前者にて解像度が高まったといっても、両者の違いはまだはっきりしていません。また、どちらの書き方も可能であるとはそもそもどういうことなのか。これを考えるため、「現象」といって終わりにするのではなく、概念的な分析をさらに進めることにしましょう。
そこで「熱交換器にて起きている現象」の登場人物として、冷媒や空気といった流体を考慮に入れていくことにします。実務において具体的には、以下のような名詞句の処理が典型的問題となります。

・冷媒と空気の間で熱交換を行う熱交換器

a heat exchanger configured to exchange heat between refrigerant and air

ここで先の議論を想定すれば、

a heat exchanger configured to cause refrigerant to exchange heat with air

または
a heat exchanger configured to cause refrigerant and air to exchange heat with each other

という選択肢が出現します。ここで想定される翻訳原稿としての和文では、初めから「冷媒と空気に熱交換させる」という使役の書き方になっていることもあります。

 

5.装置が現象を引き起こすー膨張弁との比較
7.図式化の試み-『動詞意味論』(影山1996)を参考に

[翻訳部コラム]熱交換器は何をするものか?-目次-

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