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2024/12/16
知財トピックス[翻訳部コラム]熱交換器は何をするものか?#12
[翻訳部コラム]は、普段は特許翻訳を担当する翻訳者・翻訳チェッカーが、業務を通じた考察をもとに執筆いたします。
熱交換器は何をするものか?
-主体が「現象の起こる場所」であるケースにおける翻訳の諸問題をめぐって-
12. まとめと、おわりに
最後にまとめておきましょう。
・熱交換器は、熱交換という現象を引き起こし促進するものであり、その定義は本質的に熱交換現象への言及を要請する。
・熱交換現象には、温度の異なる少なくとも2つの対象(通常は流体)が必要となるため、現象の記述に際してはこれらが登場することになる。
・2つの対象同士の熱交換現象にまで言及するか(CAUSE―configured to cause X to exchange heat)、比喩的に熱交換器の機能に着目しこれを取り出して記述するか(CONTROL-exchanges heat)、どちらも可能。これは記述の際の書き手―翻訳者の選択となる。
なお、議論の簡略化のため、本文中では日本語での主格の格助詞「が」と主題を示す係助詞「は」との違いについて触れませんでしたが、もしも「熱交換器「が」熱交換を行う」と主語として示されることがあるなら、上記の議論でいう比喩的な性質が際立つようにも思われます。「が」は動作主をマークするからです。このあたりの詳細な分析は、やはり「意味役割」等の言語学のより専門的な議論抜きには取り扱いにくいように思われます。(注1)
以上、本コラムで展開した内容は、筆者の提示する図式的な仮説に過ぎません。しかし、それなりにおもしろく吟味できる図式であるとも言えるのではないでしょうか。少なくとも、熱交換器にかぎらず言葉で名づけられた概念というのは実に意外な切り分けられ方をしていることがある、それは確かであり、ふとした瞬間にその側面が顔を出します。筆者たち翻訳者は(おそらくは特許明細書を執筆する弁理士や技術者も、でしょうか)そうしたものについて「何が」「何を」行うものかと日々頭を悩ませているわけですが、その中で概念の構造や歴史の意外な側面と出会うこともあります。そしてそれこそが、ことばと向き合うお仕事の醍醐味の一つでもあると、筆者は思います。
(注1)この点を少しだけ掘り下げておきます。日本語において本来主語であるものを主題の「は」に置き換えると、意味内容として場所的な性質を帯びるという指摘があります(池上嘉彦、『「する」と「なる」の言語学』、大修館、1981年、203頁.)。「日本は」は「日本においては」と言い換えられ、「像は鼻が長い」は「像においては」と解釈できるというのです。筆者の仮説ですが、「熱交換器は」と書かれたとき、現象の起こる場としてのCAUSEがより意識され、「熱交換器が」と書いたときには比喩としての主体性が前に出てCONTROLの構造がより意識される可能性があるようにも思われます。
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